一般社団法人 巨樹の会 新武雄病院
Shin Takeo Hospital

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脳神経外科

顔面痙攣

症状

疲れ目などで、まぶたがピクピクする、というのは比較的多くの方が経験することだと思います(眼瞼痙攣)。 これとは異なり、通常、右か左の片側だけ、かってにウィンクするように目の周りが痙攣したり、口が引っ張られるように痙攣するのが顔面痙攣(片側顔面痙攣)です。

人と話したり、緊張したりすると起こりやすい方が多いです。 脳神経外科で扱う病気の中では珍しいのですが、命に関わる病気ではありません。 しかし、顔はもっとも人目につきやすく、対面を嫌うようになったり、運転中に起こると遠近感がつかみにくくなったりして困るという方もいます。 また、診察上は、それほど強い顔面痙攣ではないものの、始終ピクピクしたりひきつっていることで、集中できないということで受診される方も多いです。

初期には、片側の目の周囲が軽く痙攣することが多く、次第に頻度が高くなり、症状も重くなります。自分の意思に反して目が閉じるなど、顔の筋肉が勝手に動くので生活に支障が出る場合があります。

原因

 
顔面神経は、脳幹と呼ばれる脳の中枢部分から出ており、頭蓋骨の内側にある孔に入った後、顔面の筋肉に命令を送るようになります。 顔面痙攣を起こしている方では、顔面神経が脳幹から別れる部分で、動脈(ときに静脈)が顔面神経を圧迫しており、このせいで神経に異常な信号が出てしまい、その間違った命令が筋肉につたわることで、顔面の筋肉が勝手に収縮して、痙攣を起こします。 異常な伝導のため、口を動かすのにまぶたも動いてしまうのも特徴的な現象です。

経過

痙攣が軽い方で、まれに自然に良くなる方がいらっしゃいますが、顔面神経が脳幹からわかれる部分はちょうど「わきの下」のようにくぼんでいて、そこに動脈がはまり込んでいる方が多いです。 そのため、自然に良くなることは少ないと考えられます。

治療法

片側顔面痙攣の治療法としては3通りあります。

1. 薬による治療

  • 顔面痙攣は、神経が異常に興奮しておこります。そのため、神経の興奮や伝達を抑える薬が有効なことがあります。 そのような抗てんかん薬のうちクロナゼパムという薬は、顔面痙攣に効果がありますが、個人差が大きいです。

    また、クロナゼパムを内服すると、ぼうっとしたり、眠くなってしまい、仕事に支障が出る、危なくて運転できないという方も少なからずいます。 私の経験上、内服薬の効果は低く、その割に眠気やふらつきをきたすことが多く、あまり勧めておりません。
  • 飲み薬
    一時的に痙攣が楽になることがあります

2. 神経ブロック

  • ボツリヌス毒という神経毒があります。これを少量、痙攣している筋肉に注射することで、筋肉の収縮を抑えることで、顔面の痙攣を抑えます。 3分ほどの処置(その後15-30分ほどの観察)で、比較的安全、簡便なことが長所です。

    一方、この治療は人工的に軽い顔面麻痺を起こさせる治療なので、注射する量によっては、治療した側が無表情になってしまったり、顔面の左右対称性に乏しく感じることがあります。 次に、この注射薬は毒素なので、からだが自然に分解してしまうことで、徐々に効果が薄れてきます。そのため、およそ3-4か月ごとに注射を繰り返す必要が生じます。

    また、注射を繰り返しているうちに、予防接種と同じように、患者さん自身のからだの中に、抗体と呼ばれる防御因子ができ、すぐにボトックスを分解してしまうようになります。 ボトックス自体は、筋肉の収縮を弱める治療なので、ご本人の感覚としてはピクピクが残っているように感じるというのも、欠点の一つです。

    他院では神経内科、ペインクリニック、眼科などの外来で通常行われますが、当院では脳神経外科外来で行っておりますので、他の治療法への移行がスムースに行えます。
  • ボツリヌス注射
    顔面の筋肉の動きをおさえます

3. 手術

  • 上記2つの治療法に比べて効果的かつ根治的な治療法であり、積極的に提案しております。 これは、症状が出ている側の、耳の後の部分に切開をおき、頭蓋骨に開けた10円玉くらいの穴から顔面神経をのぞき込んで、顔面神経に当たっている動脈を移動させるという治療です。

    髪の毛は切る部分の周りのみ切らせていただきます。脳神経外科手術用顕微鏡を使用して、動脈による顔面神経の圧迫を解除します。手術中に顔面の筋電図検査を行い、治療効果の目安にします。 また、手術中に聴性脳幹反射モニタリング(耳からの音刺激での脳波を測定し、術後の聴力に影響が出ないようにする手法)を併用します。

    病気の原因となっている部分を治療するという意味で、根本的な治療であり、初回手術の顔面痙攣治癒率は9割程度です。

    欠点としては、全身麻酔が必要であり、入院治療(10日程度)が必要なこと、手術の合併症のリスクがあります。 手術で起こりうる合併症としては、同じ側の聴力低下、うまく飲み込めなくなってリハビリが必要になる、傷の感染や髄液漏れなどが2-3%です。生命にかかわることは基本的にはありません。

    退院後は手術創の状態を確認させていただくため、概ね退院後2週間、6週間後に外来に来ていただき、術後6ヶ月および1年後でも顔面痙攣がないことを確認して、終診となります。 当術者は、これまでに約150例の治療実績があります。
  • 手術
    片側顔面痙攣の根本的な治療法です


手術の概要

神経を圧迫している血管を移動し、圧迫を減らす「微小血管減圧手術」(MVD:Microvascular Decompression Surgery)を行うことで、80~90%程度の患者様は症状がほぼなくなります。
 

 

※図は日本ストライカー株式会社発行の"患者さんの手引き 顔に出る「痛み」や「けいれん」の話"から引用